「眠れる能力を呼び覚まそう!~細胞からまなぶ処世術」(2013年4月1日)

☆ 健康あれ・これ 第121回
  「 眠れる能力を呼び覚まそう!~細胞からまなぶ処世術 」
           あいち健康の森健康科学総合センター長
                あいち介護予防支援センター長      津下 一代

 4月。就職、転勤、転職など、あらたな暮らしに踏み出す人が多い季節です。業界用語を覚え、思考回路を作り直し、新しい
人間関係や役割になじむまでは苦労がつきものです。
 退職や子どもの独立も大きな転機です。仕事中心、子ども中心の生活から、あらたな生活パターンへと移行していくことにな
るので、これまでの考え方・やり方が通用しない事態も。地域社会の人間関係にうまく調和できるのか、ペースがつかめるまで
は不安やあせり、寂しさもあることでしょう。

 自分の今までのやり方を続けることができないとき、「新たな可能性の発見につながるチャンスが来たかもしれない」と前向き
に受け止めることが、生物学的には理にかなっているのではないか。そんなことを考えています。
 生物は遺伝子情報のほんの一部分しか使っていません。環境の変化がきっかけとなって、今まで使われてこなかった遺伝子
が活性化して、新たな環境になじむようになる、これがエビジェネティクスの考え方で、2012年11月にもこのお話をご紹介し
ました。
 自分には、まだ眠っている遺伝子があり、新たな環境のもと、今までとは違う能力が動き出すかもしれない、と考えると、なん
だか勇気が出てきます。

 さらに、iPS細胞の話は、潜在能力のすごさを思い知らされます。成長して特別な機能を担っている細胞も、まったく機能の
違う細胞へと再進化することができるのですから。
 筋肉の細胞は伸びたり縮んだり、筋肉としての役割を果たしています。乳腺の細胞はお乳を生産する役割を果たしています。
一見まったく違う細胞なのですが、もとはといえば一つの細胞、受精卵を起源とした兄弟のようなもので、同じ遺伝情報を持って
いるわけです。まったく同じ遺伝子をもつ細胞なのに、その場にあわせて遺伝子の働き方を変えて、その場に合った役割を果た
しているのですね。
 ところが、山中先生の発見したある刺激を加えると、成熟した細胞からいったん未熟な細胞へ巻き戻り、あらたに別の機能を
果たす細胞に生まれ変わることができるわけです。ここで気づくのは、成熟した細胞から別の種類の成熟した細胞へ、一足飛
びに変わるのではなく、いったん原点である未熟細胞の状態にもどしてから再進化するということです。

 これを比ゆ的にとらえると、会社や役所で一定の役割をしていた人が、家庭や地域で活躍する人に変わるには、その役割を
引きずるのではなく、人間としての原点に立ち戻って(白紙から)再出発する必要がある、ということになるのでしょうか。周りか
らの刺激をいっぱい受けることで、新たな役割の自分を見出していくプロセスが動いていきます。
 今の「自分」と思っている自分は、実は環境がつくりだした一面でしかない。人間としての能力はさらに広く、多様性があるもの
と考えて、チャレンジしていくことが大切だと、細胞が教えてくれているように思います。