「減量の効果を確かめる~アディポネクチン、Angptl2の変化でとらえる~」(2013年5月16日)

☆ 健康あれ・これ 第124回
  「 減量の効果を確かめる 
       ~アディポネクチン、Angptl2の変化でとらえる~ 」
            健康科学総合センター健康開発部長 村本 あき子

 肥満があると、高血圧、脂質異常症(中性脂肪の上昇、HDLコレステロールの低下)、糖尿病を発症しやすいことは、
これまでに多くの研究によって示されてきました。
 また、脂肪細胞はエネルギーを蓄えるだけではなく、様々な生理活性物資(アディポサイトカイン)を分泌することも明ら
かになっています。そして、肥満状態では脂肪細胞からTNFαやアンジオテンシノーゲンといった物質が過剰に分泌され、
血糖や血圧の上昇を招く一方で、動脈硬化の進展を抑える働きを持つアディポネクチンの分泌が減ります。

 1990年代後半から2000年代前半にかけて、熊本大学大学院生命科学研究部・ 分子遺伝学分野の研究グループ
を中心として、おもに脂肪細胞から産生されるAngipoietin-like protein 2(Angptl2)が発見されました。肥満脂肪
組織ではAngptl2の分泌が増加し、脂肪組織自体に作用して慢性炎症を引き起こすとともに、血管内皮細胞の炎症性
病変の原因となります。その結果、インスリン抵抗性(注1)やメタボリックシンドロームの進展を招き、動脈硬化性疾患発
症の危険性が上がると考えられています。
 アディポネクチンをその作用から「善玉のアディポサイトカイン」とすると、Angptl2は、いってみれば「悪玉のアディポ
サイトカイン」ということになります。

 当センターでは熊本大学との共同研究により、肥満あるいは腹囲増大のある男性(平均BMI26.9kg/m2、腹囲94.
1cm)約140人を対象とした3か月間の生活習慣改善プログラムを実施し、減量によってアディポネクチンとAngptl2が
どのように変化するか12か月後まで検討しました。平均体重減少率は、プログラム開始時と比べて、3か月後に3.0%、
6か月後に3.7%、12か月後には3.1%でした。
 その結果、アディポネクチンはプログラム開始から12か月たって上昇(回復)がみられたのに対し、Angptl2については
プログラム終了直後(3か月後)から明らかな低下が確認されました。つまり、減量早期の効果を確認するにはAngptl2
が、長期効果の確認にはアディポネクチンが優れていると考えられます。

 他の検査項目との関連を調べると、アディポネクチンの上昇は空腹時血糖値の低下と関連が大きいという結果になりま
した。一方、Angptl2の低下はCRP(炎症の程度を表す指標)の低下に加えて中性脂肪の低下と関連が深いことがわか
りました。すなわち、アディポネクチンは血糖値の変化を、Angptl2は脂質とくに中性脂肪の変化を表すのが得意といえ
そうです。
 メタボリックシンドロームには、血圧や脂質の項目が該当する場合もあれば、血糖値が該当することもあるといったよう
に、様々な検査値異常の表れ方があります。今回の結果は、こういったメタボリックシンドロームの多様性を解明していく
手がかりにもなると考えられます(注2)。
 
注1: インスリン抵抗性とは、インスリンの分泌量は正常でもインスリンの効き目が悪い状態をいい、糖尿病のみならず
   高血圧や脂質異常などの多くの生活習慣病に共通する病態基盤と考えられています。

注2: 今回の研究結果を論文にまとめました。
   A Muramoto,K Tsushita,A Kato,et al.Angiopoietin-like protein 2 sensitively responds
   to weight reduction induced by lifestyle intervention on overweight Japanese men.Nutrition
   and Diabetes(2011)1,e20;doi:10.1038/nutd.2011.16