「深まる死因のなぞ・・・老衰、認知症をどう考えるか?」(2013年9月1日)

☆ 健康あれ・これ 第131回
  「 深まる死因のなぞ・・・老衰、認知症をどう考えるか? 」
          あいち健康の森健康科学総合センター長
                あいち介護予防支援センター長      津下 一代

 不老長寿を願う気持ちは古代から変わりませんが、生き物には宿命があり、ヒトはなかなか110歳を超えられません。以前大学で、細胞をシャーレの中で育てる実験をしていたことがあります。快適な温度と湿度、栄養などの環境を整えても、20回くらい世代交代させると、細胞は老化して増殖できなくなり、死んでいきます。遺伝子に寿命が組み込まれている以上、老化や死は避けられないことのようです(少なくとも現時点では)。

 医療や予防は、予定された死の時期を早めないことを目的としています。わが国では90歳まで元気で生きられる人が増えてきました。戦い、飢餓、感染症、生活習慣病などを乗り越えて獲得した偉大なる成果であると思います。寿命をさらにのばしていくためには、死亡原因を究明し、予防できる病気について対策を講じることが大切です。
 そこで死亡統計をじっくり見ると、原因疾患のつけかたに時代の変化や地域性が反映されていることに気づきます。

 たとえば「老衰」についてみると、昭和35年には人口10万人あたり58人でしたが、平成12年には17人に減少、その後23年には41人へと増加しています。昭和35年当時は死亡の約8割が自宅。高齢者が床に臥せると、病院に行くことなく「老衰」として看取られていたのでしょう。平成12年には病院での死亡が約8割と逆転、老衰を死因から排除し、病気の原因を突き止めて徹底的に治療する「医療の時代」となりました。
 最近の傾向として、再び「老衰」が増えてきています。90歳を超える高齢者が増加していることや、「高齢者に対して負担の大きい検査や治療をするよりも、本人らしい最期の時を迎える方が望ましい」という考え方の広がり、在宅での看取りが復権しつつあることが関係していると思われます。

 また、死因を国際比較すると、不思議な現象に気づきます。WHO(世界保健機構)のレポートによると、2011年(平成23年)の米国では、1.虚血性心疾患、2.脳卒中、3.アルツハイマー病等の認知症、と続きます。認知症はヨーロッパでも7位にランクイン、過去10年間で増加が著しい原因疾患のひとつであり、今後さらなる増加が予測されています。
 アルツハイマー病は単なる老化ではなく、脳細胞の変性が脳の一部分から始まり、脳全体に広がって、生命を維持できなくなる病気として認識されています。脳の障害部位の広がりに応じてさまざまな症状が現れますが、保てている機能を大切にサポートするケア体制、心穏やかに暮らせる環境づくりが重要視されるようになりました。病状がすすんで終末期を迎えれば、人工的に栄養補給をして延命するのではなく、本人、家族にとって貴重な時間を過ごすための緩和ケアにつなげています。
 わが国の死因統計では、現在、認知症は原因疾患として挙げられることはなく、誤嚥性肺炎など別の病名で登録されています。認知症に対して私たちはどうむきあっていくのか、医療、介護、家族へのサポートの面からどのような対応がベターなのか、今後いっそう議論が深まっていくものと思います。