「歩いて脳を活性化」(2014年3月16日)

☆ 健康あれ・これ 第144回
  「 歩いて脳を活性化 」
           健康科学総合センター健康開発部長 村本 あき子

 ようやく春らしくなってきました。冬のあいだ、寒さで縮こまっていた身体を動かしたくなる季節です。

 アメリカで行われた研究によると、ウォーキングによって「海馬(かいば)」の体積減少を防ぎ、記憶能力の改善が見られたという報告があります(注1)。「海馬」とは脳の一部の名称で、おもに記憶や空間認識をつかさどっています。名前の由来は「Seahorse(タツノオトシゴ)」、形状が似ているため、こういった呼び名がついています。
 一般に、海馬の体積は、高齢者において1年で1-2%減少していき、認知機能の低下に関連するとされています。

 この研究では、認知症のない高齢者120人を、「有酸素運動群」と「対照群(ストレッチのみ実施)」の2つのグループに分け、1年間の介入を行いました。
 「有酸素運動群」では、ウォーキングを10分間から開始、1週ごとに5分間ずつ増やし、7週目に40分間まで増えたのちは、1年後までその運動量を維持しています。運動の頻度は週3回、運動強度はKarvonen法(注2)で、初期に50-60%、後期でも60-75%ということですから、無理なく続けられそうな内容です。

 海馬の体積はMRIで評価していますが、対照群で1年後に約1.4%減少したのに対し、有酸素運動群では約2%増加しました。
 また、空間記憶能力は、1-3個の黒い点を配置した画面を0.5秒間見た後、3秒間は画面を消し、その後、正しい点の配置を記憶しているか確認する、という方法で調べていて、海馬体積が増えるほど大きく改善したと報告しています。
 ウォーキングは、海馬の体積減少という加齢変化をキャンセルするのみならず、記憶機能も改善し、脳の若返り効果があると考えられます。

 また、他の研究では、飼育箱になにも置かずに飼育したマウスと、回転かごを入れることにより運動量を増やして飼育したマウスの海馬を比較しています(注3)。その結果、後者では海馬の神経新生が活発であったことが確認されています。

 花々が咲き、緑もまぶしくなってくる季節、歩くほどスクスク神経が伸びてきて、脳が若返ることをイメージしながら、ウォーキングに出かけませんか。

注1: Kirk IEら。PNAS 108:3017-3022、2011
注2: Karvonen法:運動処方をする際に用いる心拍算出法で、「目標心拍数(拍/分)=運動強度(60%であれば"0.6")×(最大心拍数―安静時心拍数]+安静時心拍数」で計算します。最大心拍数は「220―年齢」で計算します。例えば、70歳で安静時心拍が65拍/分、60%運動強度の場合、目標心拍数は0.6×(220-70-65)+65=116(拍/分)となります。
注3: van Praag Hら。Nat Rev Neurosci. 1:191-198、2000