もうひとつの糖尿病~1型糖尿病がハンディにならない社会へ~(2010年1月16日)

「もうひとつの糖尿病~1型糖尿病がハンディにならない社会へ~」

             健康科学総合センター 副センター長 津下一代  

 昨年末、1型糖尿病の患者さんやご家族で結成された「つぼみの会」クリス
マス会にお誘いいただきました。子どもたちは食事の前に、手のひらサイズの
血糖測定機で血糖値をはかり、ペン型の注射器でインスリンをうちます。それ
以外は普通の子供たちと全くおなじ、お友達や家族との交流を元気いっぱい、
楽しんでいました。

 糖尿病というと、わが国では98%以上は2型糖尿病、すなわち食生活の問
題や運動不足、肥満が背景となって発症する生活習慣病です。最近は子ども
でも、2型糖尿病が増えていることが心配されているところです(昨年2月に本
コラムでも紹介)。

 いっぽう、おなじ「糖尿病」という名がつきますが、1型糖尿病はまったく原因
が異なります。ウィルス感染などをきっかけに自己免疫反応がおこり、膵臓ベ
ータ細胞が破壊され、インスリン分泌ができない状況になります。インスリンが
分泌されないために高血糖が続き、体のだるさや体重減少をきっかけに発見
されることが多いようです。

「かぜを引いたと思っていたら、だるさがとれなくなり、体重がどんどん減少し
てきて・・・。子どもが1型糖尿病といわれたとき、目の前が真っ暗になりまし
た。一生、インスリン注射をしなければいけないし、低血糖の危険もあるし、
目や腎臓などの合併症のことを考えると心配で・・・」と、隣にすわったお母さ
んからお話を伺いました。

 25年前には、血糖自己測定機もなく、ヘモグロビンA1C(HbA1C:血糖の
1~2カ月の平均値)の測定も一般的ではありませんでした。2週間に一回、
病院で測る血糖値だけが頼りです。また、インスリン注射も病院で予防注射を
するときのような注射器でしたから、幼い子供が何度も打つのは難しく、朝、
夕の2回打ちが主流でした。1日3回の食事に合わせて血糖値が上昇するの
で、最低でも3~4回打ちが必要なのに・・・。

 結果として良好なコントロールの達成は難しく、若くして合併症をおこした患
者さんも少なくありませんでした。そんな時代に1型糖尿病の患者さんの治療
を体験した私にとって、新しい治療法の開発とともにコントロールが良好にな
っていく様子をみるにつけ、医学の進歩が人々の幸福に直結していることを
実感したものです。

 現在、1型糖尿病患者さんは、膵臓ベータ細胞が体内で無意識のうちに行っ
ていることを自分自身で行うことによって、つまり血糖値のセルフモニタリング
とインスリン自己注射によって血糖値を安定させることができ、合併症の発症
や重症化が抑制されるようになりました。今後、さらに便利な治療法の開発や、
再生医療・移植といった「治癒をめざす」治療法が開発され、患者さんの幸福
に貢献できることでしょう。
 
 子どもたちの成長過程で考えると、学校生活、ひとり暮らしを始める大学生、
就職、結婚、妊娠、出産など、さまざまな段階で悩みや不安があると思います。
「インスリン注射、補食(低血糖防止のためのスナック)、血糖測定を安心して
できる環境があれば、よいコントロールができます。私の場合は、周りの人が
暖かく見守ってくれたので、学業にも就職にも全く影響がなく、不安はありませ
んでした。」20歳を迎えた1型糖尿病患者さんのことばが耳に残っています。

 1型糖尿病であること、慢性疾患を抱えていることがハンディにならない社
会づくりが重要であると再認識できた1日でした