ジャパニーズパラドックスについて(2007年9月16日)

「ジャパニーズパラドックスについて」

          健康科学総合センター健康開発部 医師 武隈清

 前回は、高脂肪食を摂っていても赤ワインにより動脈硬化が予防できるかもし
れないというフレンチパラドックス(フランスの逆説)についてのお話しでした。
似たような言葉にジャパニーズパラドックス(日本の逆説)があります。
今回は、それについてお話しいたします。

 お腹に脂肪が蓄積するメタボリックシンドロームは動脈硬化の危険を高めます
が、それ以上に動脈硬化の危険を高めるのがタバコです。

 欧米諸国と比べると、日本人の喫煙率はまだまだ高いことが知られています。
それにも関わらず、日本人の心筋梗塞発症率は、欧米諸国に比べて1/10か
ら1/5と少なく、世界の中でも最も低い率にとどまっています。動脈硬化の
危険因子であるタバコを吸う人が多いのに、実際には心筋梗塞の発症が少ない。
これが、ジャパニーズパラドックスというわけです。

 フレンチパラドックスは赤ワインの影響が考えられました。ジャパニーズパラド
ックスを説明する理由は日本酒、ではありません。欧米に比べて脂肪の少ない
日本の食生活が第一に考えられています。つまり、内臓脂肪がたまりにくい低
脂肪の食生活により、高い喫煙率にかかわらず日本人の心筋梗塞が世界的に
みて少ないという理屈です。

 最近、メタボリックシンドロームが大問題なのに、「低脂肪」とはどういうこと?
と思われた方もおられたのではないのでしょうか?現在、日本人の摂取エネル
ギーに占める脂肪の比率は25%程度であり、欧米の30~40%に比べれば
低率です。しかし、1970年以前は、さらに低脂肪で20%以下という状態であ
ったのです。そのような食生活を送られてきた方が心筋梗塞を起こすことはき
わめてまれであったわけなのです。

 脂肪エネルギー比率20%以下といっても、ピンとこない方が大部分と思いま
す。それを経験するための一番てっとり早い方法は、昭和初期に生まれた方と
同じ食事をしてみることです。すなわち、揚げ物などフライパンを使った料理が
ない食事です。ちなみに、大学卒業数年後に生まれ故郷の病院に勤務すること
となり、両親と久しぶりに同居することがありました。その結果、期せずして伝統
的な日本式低脂肪食を摂る事になりました。以前、このコラムで申しましたよう
に、脂肪エネルギー比率25%の病院食ダイエットに1年以上耐えて、無事、メ
タボリックシンドロームから脱出することに成功した私ですが、脂肪エネルギー
比率20%以下となると、全身からパワーがなくなった感じがしてしまい、1週間
もしないうちに脂肪が恋しくなって中華料理屋に駆け込みました。

 メタボリックシンドロームを引き起こす悪の権現として槍玉にあげられる脂肪で
すが、明日への活力を生む重要な栄養素でもあるのです。ジャパニーズパラド
ックスは、徹底的な低脂肪状態を続けることで動脈硬化の予防が可能であるこ
とを示していますが、現在の日本人が以前の低脂肪食に戻ることは不可能のよ
うに思います(皆さんも一度、「伝統的日本食」を1週間続けていただくときっと同
意されることと思います。同時に、脂肪のパワーの凄さも認識されることでしょう)。
しかし脂肪と仲良くつきあいながら、動脈硬化を予防することは可能であるよう
に思えます。次回以降は、その点について考えていきたいと思います。