貝原益軒の「養生訓」からみた健康づくり・生活習慣病予防(2006年1月2日)

「貝原益軒の「養生訓」からみた健康づくり・生活習慣病予防」

           あいち健康の森健康科学総合センター長 富永祐民
 
 「養生」ということばを広辞苑でみると、「生命を養うこと、健康増進をは
かること、衛生を守ること」と書かれています。貝原益軒は満84歳の生涯を
閉じるまでに多数の著述(99部、251巻)を残していますが、「養生訓」
は亡くなる前年(1713年)の著述です。「養生訓」はさしずめ300年前の健康
づくり・生活習慣病予防法のバイブルと言えましょう。

 平均年齢が50歳以下の当時、満84歳と言えば大変な長寿といえます。貝
原益軒は養生訓で「人生50にいたらざれば、血気いまだ定まらず。知恵いま
だ開けず。古今にうとくして、世変になれず、言あやまり多く、行い悔い多し。
人生の理(ことわり)も楽しみもいまだ知らず。50にいたらずして死するを
夭(わかじに)といふ。是亦、不幸短命といふべし。長生きすれば、楽しみ多
く益多し。日々にいまだ知らざることを知り、日々にいまだ能(よく)せざる
ことを能す。

 この故に学問の長進することも、知識の明達なることも、長生きせざれば得
がたし。之を以て養生のすべを行い、いかにもして天年をたもち、50歳をこ
え、成るべきほどに弥(いよいよ)長生きして、60歳以上の寿域に登るべし」
と書いています。つまり、現在なら定年を迎える60歳頃まではまだ知識、経
験も浅く、未熟である。60歳の寿域に入った頃から円熟していくと述べてい
ます。
 
 貝原益軒は人の寿命は100歳で、上寿は百歳、中寿は80歳、下寿は60
歳であるのに、下寿の60歳に達する人は意外に少なく、50歳以下の短命の
人が多い。ここで貝原益軒は「短命なるは生まれつきて短きにはあらず。10
人中9人は皆みずからそこなへるなり。ここを以て、人生養生の術なくんばあ
るべからず」と断言しています。まさに卓見です!

 貝原益軒は「養生の術」として次のように述べています。「養生の術は先ず
心気を養うべし。こころを和(やわらか)にし、気を平かにし、怒りと欲をお
さへ、うれひ、思ひを少なくし、こころを苦しめず、気をそこなわず、是れ心
気を養う要道なり。」と、まずこころの健康法を説いています。さらに続けて
「又、臥すことをこのむべからず。久しく眠り臥せば、気滞りてめぐらず。飲
食いまだ消化せざるに、早く臥しねぶれば、食気ふさがりて甚だ元気をそこな
ふ。いましむべし。酒は微酔にのみ、半酣をかぎりとすべし。食は半飽に食ら
ひて、十分にみつ(満)べからず。酒食ともに限りを定めて、節にこゆべから
ず。」と節眠、節酒、節食を勧めています。

 さらにセックスに関しても「又わかき時より色欲をつつしみ、精気を惜しむ
べし。精気を多くつひやせば、下部の気よはくなり、元気の根本たえて必ず命
短し。」と述べています。養生訓と言えば年齢別のセックスの回数で有名です
が、これは別の箇所で中国の孫思ばく(貌にしんにょうの漢字)の千金方に曰
くとして「20歳では4日に1回泄(もら)す。30歳では8日に1回泄す。
40歳では16日に1たび泄す。50歳では20日に1回泄す。60歳では精
を閉じてもらさず。もし、体力さかんなれば1月に1回もらす。」と節性を説
いています。

 現在の健康づくり法では運動、栄養、休養の重要性を説いてもセックスには
全く触れていませんが、養生訓では健康法の視点からセックスについても触れ
ており、視野の広さに脱帽せざるを得ません。今回は紙面の制約からたばこに
関しての記述は紹介できませんが、現在でも通用する優れた記述をしています。