医療費急増を「予防」 -医療制度改革のねらい-(2006年1月16日)

「医療費急増を「予防」 ―医療制度改革のねらいー」

           あいち健康の森健康科学総合センター長 富永祐民

 昨年12月2日付の読売新聞で医療制度改革の全容と課題 医療費急増を「
予防」という見出しで、政府・与党が12月1日に決定した医療制度改革の大
綱の概要が紹介されていました。私は思わず「さすがに新聞記者(デスク)、
上手な見出しだ!」と感嘆しました。最近の新聞はページ数が多く、丁寧に読
む時間がありませんので、いきおい見出しを読んで記事の概要を把握し、特に
関心がある課題については記事も読むことにしています。

 前述の読売新聞の見出しは記事を読まなくても今回の医療制度改革のねらい
が医療費の急増に対して疾患の予防対策に力を入れて医療費増にブレーキをか
けよう(予防しよう)としたもので、「予防」をかけことばとして使っている
ことがわかります。
 
 わが国の平均寿命は世界1長く、医療費や介護費がかかる高齢者人口が急増
しており、運動不足、不適切な食生活などの不適切な生活習慣と重なって長期
間医療を要する慢性的な生活習慣病が増えています。糖尿病一つを取り上げて
も、進行すると腎不全を合併し、長期間にわたり人工透析が必要となります。
また、糖尿病に由来する網膜病変により失明すると医療費だけでなく、患者さ
んのQOLも低下します。

 糖尿病の多くは適切な食生活と運動でかなり軽快し、うまくいけば正常化し
ます。もし、糖尿病が軽快してインスリンや経口糖尿病薬を使用しなくてもよ
い状態になると、医療費の節約のみでなく、生活習慣の改善により、高血圧、
心臓病、脳卒中などの生活習慣病のリスクも低下しますので一石二鳥だと言え
ます。また、糖尿病予備軍といえる状態の人も多く、これらの人々の生活習慣
を改善し、糖尿病の発生を予防することができれば多額の医療費と介護費を節
約できることになります。
 
 今回の医療制度改革大綱では「これまでの治療重点の医療から、疾病の予防
を重視した保健医療体系へと転換を図っていく」との方針が掲げられています。
これはこれまでの治療重視の医療制度から、生活習慣病などの予防を重視し、
「医療給付」から「予防・医療給付」への変換を方向付けたもので、画期的だ
と言えます。一般に予防は1次予防と2次予防に大別されますが、ここでは1
次予防(疾患の発生を予防)をねらっており、定期的な健診を普及して異常(
例えば、高脂血症、高血糖、高血圧など)を早期に発見し、いきなり治療を始
めるのではなく、生活習慣を是正して異常検査所見が正常化するか、改善する
か見極めて適切に対応しようとするものです。

 健康日本21計画では国は国としての計画を立て、都道府県も地域の実情を
考慮して都道府県計画を策定し、市町村もそれぞれの計画を立てる仕組みにな
っています。今回の医療制度改革では都道府県ごとに健康診断受診率の向上、
生活習慣の適正化に関する保健指導の実施などを数値目標にする「医療費適正
化計画」を策定し、5年ごとに適正化計画を更新することとされています。5
年間の計画が終了した時点で、目標の達成状況を検証し、厚生労働省は達成状
況に応じて診療報酬に差をつけることも検討しているそうです。

 そうなると、これまでの“割り勘“的な保険制度でなく、予防対策に力をい
れず、治療費が高くついた都道府県や市町村には診療報酬を削減する(ペナル
ティを科す)可能性もあるわけです。これに反して予防事業に力を入れて医療
費が低下した都道府県や市町村に対しては診療報酬を増額するなど、何らかの
見返りがあることも期待されます。これは努力の結果が認められることで、”
割り勘“より公平であると言えるかも知れません。将来は都道府県や市町村単
位だけでなく、個人単位でこのようなことが当てはめられるようになるかも知
れません。