貝原益軒の「養生訓」からみた たばこと酒の害と益(2006年3月16日)

「貝原益軒の「養生訓」からみた たばこと酒の害と益」

           あいち健康の森健康科学総合センター長 富永祐民

 本年1月1日号のE-ニュースの健康づくりと生活習慣病予防こぼれ話42
で貝原益軒の「養生訓」からみた健康づくりと生活習慣病予防を紹介しました。
貝原益軒の「養生訓」でたばこと酒の害と益についても記述しています。ちょ
っと長いですが最初にたばこに関する記述を原文(一部ふりがな)で紹介しま
しょう。

 「たばこは近年、天正・慶長の頃、異国よりわたる。痰婆姑(たんばこ)は、
和語にあらず。蛮語也。近世の中華の書に多くのせたり。又烟草と云う。朝鮮
にては南草(なんそう)と云う。和俗これを、莨(ろう)とう(ワープロにな
い漢字)とするは誤まれり。莨とうは別物なり。烟草は性毒あり。烟をふくみ
て、眩(めま)ひ倒るる事あり。習へば大なる害なく、少しは益ありといへ共
(ども)、損多し。病をなす事あり。又火災のうれひあり。習へばくせになり、
むさぼりて、後には止めがたし。事多くなり、いたつがはしく家僕を労す。初
めよりふくまざるにしかず。貧民は費(ついえ)多し。」
 
 少しわかりにくい箇所があるかもわかりませんが、大意はおわかりいただけ
ると思います。このように、貝原益軒はたばこの害をかなり正確に記述してい
ます。特に、後半で「たばこには少しは益はあるが、害が多いこと、また病気
になることもあり、火災の原因にもなる。たばこを吸い始めると習慣性があっ
て止められない。いろいろなことが起こり、家族にも迷惑をかける。初めから
吸わないに超したことはない。貧乏人には出費が多い。」などの記述は現在で
も立派に通用します。

 貝原益軒は「養生訓」で飲酒の害と益についても詳しく書いています。かな
り長いので、一部を紹介します。
 「酒は天の美禄なり。少しのめば陽気を助け、血気(ストレス)をやはらげ、
食気(食欲)をめぐらし、愁いを去り、興を発して甚(はなはだ)人に益あり。
多くのめば、又よくひとを害する事、酒に過ぎたる物なし。 ―中略― 少し
のみ少し酔へるは、酒の禍なく、酒中の趣(おもむき)を得て楽多し。人の病、
酒によって得るもの多し。酒を多くのんで、飯をすくなく食ふ人は、命短し。
かくのごとく多くのめば、天の美禄を以て、却て(かえって)身をほろぼす也。
かなしむべし。 ―中略― 酒を多く飲む人の、長命なるはまれなり。酒は半
酔にのめば、長生の薬となる。」

 どうですか。貝原益軒は酒の益と害は極めて正確に記述しており、何も追加、
修正することはありません。貝原益軒はさらに飲酒の量のみでなく、酒は食前
でなく、食後に飲んだ方がよいこと(空腹時を避ける)、酒は冷たくても熱く
てもよくなく、温酒がよいこと、酸っぱくなったり、濁りすぎた酒はよくない
と注意しています。これは昔は現在のような清酒はなく、濁った酒で、殺菌も
十分行えなかったからでしょう。

 いずれにしましても、貝原益軒は疫学的研究もしないで、観察のみによって
喫煙と多量飲酒が健康を害し、禁煙・節酒が健康長寿によいことを知り、これ
を人々に勧めており、脱帽せざるを得ません。
(養生訓の出典:貝原益軒著石川謙校訂、養生訓・和俗童子訓、岩波書店)