EDと生活習慣(2006年6月16日)

「EDと生活習慣」

  健康科学総合センター長 富永祐民

ED(erectile dysfunctionの略)は医学の専門用語で、勃起障害、インポテンス
のことです。俗に老化は「目・歯・まら」の順に進むと言われていますので、勃
起障害は老化現象の一種であるとみられます。「まら」は魔羅・摩羅・末羅とも
書き、梵語のmaraで、仏教修業を妨げ、人の心を惑わすもの、つまり、陰茎を
指しています。

 私は長年陶芸を趣味としています。数年前の陶芸仲間の新年会で酒が回っ
た頃、トラックの運転手をしている五十歳位の男性が「先生、たばこをやめたら
息子は元気になりますかね?」と尋ねた。私は即座に「ええ、もちろんです」と
答えました。喫煙は健康へいろいろな影響を及ぼしていますが、勃起障害(イ
ンポテンス)もその一つなのです。以前にアメリカで作られた反喫煙テレビコ
マーシャルで、たばこをくわえた男性の前をグラマーな美人が通り過ぎ、その
男性の目が美人を追っている最中に口にくわえたたばこがグニャッと垂れ下が
ってしまい、男性はばつの悪そうな顔をしたのを見ました。たった数秒の無言
劇でしたが、よくできていると感心しました。

 勃起障害の男性は全国で約1130万人いると推定されていますが、実際に
泌尿器科を受診しているのはその内の約5%位とのことです。年齢層は20代
から80代と幅広く、その原因は、ストレスなどの精神的なものと思われがちで
すが、生活習慣が深く関わっていることが明らかにされています。勃起障害に
関する学会も存在しているのです。1978年にはインポテンス研究会が組織
されましたが、1989年には日本インポテンス学会に昇格し、1994年には
「日本性機能学会」に改称され、現在に至っています。この学会の会員数は約
780名で、平成13年には専門医制度も導入されたそうです。

 昨年開催されたEDに関するセミナーでは、米国カリフォルニア大学泌尿器
科のトム・F・ルー教授が米国で行われた生活習慣とEDに関する大規模な疫
学研究の結果を紹介しました。すなわち、定期的な運動はEDのリスクを30
%下げ、逆に肥満はEDリスクを30%上げること、喫煙、飲酒、テレビ鑑賞も
EDのリスクを上昇させること、慢性的な疾患にかかっていないで、定期的に
運動している男性ではEDのリスクが最も低いと報告しています。また、フィン
ランドで行われた疫学調査でもEDリスクは肥満で1.7倍、喫煙で1.5倍高
くなっていたと報告しました。さらに、ボストンで行われた疫学研究から、ED
の予防のためには、若い時から健康的な生活習慣を始め、定期的に運動し、
喫煙をやめ、飲酒も控えめにすると、心臓病などの予防とともにEDも予防で
きると説いています。イタリアで行われた勃起不全を有する肥満男性を対象と
した予防研究では、生活習慣の改善によって約3分の1の患者でEDが改善し
たそうです。
 
 ちなみに、最初に紹介した陶芸仲間は翌年の新年会で「先生、たばこはや
めました」と報告したので、「調子はどうですか?」と尋ねましたら、「はい、
おかげさまで」と答えました。