酒が強くなった人はご用心!(2006年7月1日)

「酒が強くなった人はご用心!」

    健康科学総合センター長 富永祐民

 そろそろビールがおいしい季節になりました。さて、読者の皆様は元々お酒が強い
ですか? 昔はあまり飲めなかったのにかなり飲めるようになりましたか? 今でも
まったく飲めませんか? 日本人を含めてモンゴロイド人種では約5割の人は若い
ときから酒が強く、約4割強の人はあまり強くなかったのに、鍛えられてだんだん飲
めるようになり(ただし、すぐに顔が赤くなる)、残りの1割弱の人はまったく飲めない
か、ごく少量飲めてもすぐに顔が赤くなります。酒が飲めるか、飲めないかは遺伝
で生まれつき決まっているのです。

 アルコールはアルコール脱水素酵素(ADH)によりアセトアルデヒドに分解(代謝)
されます。アセトアルデヒドはさらにアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酢
酸に分解され、酢酸はさらに無害な水と炭酸ガスに分解されます。アセトアルデヒド
を分解する酵素は4種類ありますが、最も重要なのは2型のALDH2です。この酵
素を制御する遺伝子の塩基配列が1ヶ所変わっただけで、生成されるアミノ酸が変
わり、Glu/Glu型、Glu/Lys型、Lys/Lys型の3つのタイプに分かれるのです。
Glu/Glu型のALDH2はアセトアルデヒドをどんどん分解するので、悪酔いもせず
相当飲めます(虎型)。Glu/Lys型のALDH2は酵素の働きが悪く、アセトアルデ
ヒドを分解するのに時間がかかり、アセトアルデヒドが血液中にたまるので顔が赤く
なったり(猿型)、胸がどきどきしたり、頭痛がしたり、ひどいときには吐き気、嘔吐な
どの悪酔い症状がでます。Lys/Lys型のALDH2はアセトアルデヒドの分解能力
が非常に低いので、ほんの少量飲んだだけで悪酔い症状がでてしまい、ほとんど飲
めません。ちなみに、私はLys/Lys型のALDH2を持っていますので、アルコール
飲料はごく少量しか飲めません。

 さて、アルコールをアセトアルデヒドに分解するアルコール脱水素酵素(ADH)とア
セトアルデヒドを酢酸に分解するアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)を制御する
遺伝子の型は生まれつき決まっていて変化しないのに、アルコール飲料を飲んでい
るうちにだんだん強くなっていくのはなぜでしょうか?ここで登場するのがミクロソー
ム・エタノール酸化系(MEOS)の酵素です。アルコールをアセトアルデヒドに分解す
る主役はアルコール脱水素酵素(ADH)で、最初に飲んだアルコールの70-80%
を分解しますが、量が多くなると助っ人のミクロソーム・エタノール酸化系(MEOS)
の酵素が登場してアルコールを分解します。さらに、いろいろな薬物や有害物質を
解毒する(時に活性化する)チトクロームP450スーパーファミリーが後ろ盾になって
います。
だんだん酒が飲めるようになるのは、多量のアルコールが存在するとこれらの助っ
人酵素の働きが強くなるからです。しかし、アルコールを分解するのを助けるだけで、
アセトアルデヒドの分解を助けませんから、Glu/Lys型のALDH2の人では多量の
アセトアルデヒドが長時間たまり、有害性(発がん性)が強くなります。愛知県がん
センター研究所疫学・予防部が行った研究では、Glu/Glu型のALDHの人でほぼ
毎日2合以上飲む人では、全く飲酒しない人に比べて食道がんにかかる危険性が
4.6倍高いだけでしたが、Glu/Lys型のALDH2の人ではなんと95.4倍!も高く
なっていました。ちなみに、Lys/Lys型のALDH2の人はほとんど酒が飲めません
から食道がんの危険性は非常に低いです。

 結論として、元々酒が弱かったのに、だんだん鍛えられて強くなった人はGlu/Ly
s型のALDH2を持っている可能性が高いですから、節酒(1日に日本酒換算で1合
以下)に心がけた方が安全です。


参考資料:梅田悦生著「飲酒の生理学 大虎のメカニズム」(裳華房)
     愛知県がんセンター研究所疫学・予防部編著
           「がん予防への案内」(2006年4月 改訂版)