喫煙、飲酒は乳がんの原因(2006年9月1日)

「喫煙、飲酒は乳がんの原因」

    健康科学総合センター長 富永祐民

9月はがん征圧月間ですから、今回はがんにちなんだ話題をご紹介致します。
この欄では健康づくり、生活習慣病予防に関する話題を広く取り上げてきました
が、がんに関する話題はめったに取り上げていません(2005年11月1日号の
「大豆の乳がん、前立腺がん予防作用」が最後)。しかし、がんも立派な生活習
慣病です。喫煙と肺がんの関係を考えても明らかです。喫煙と飲酒といえば、
食道がん、口腔がん、肝臓がんの原因のように聞こえますが、最近の疫学研究
から乳がんの原因でもあることがわかりました。

 わが国では古く1960年から全国の住民約26万5千人を対象とした大規模な
疫学調査が行われていましたが、その後生活習慣も大きく変わり、約15年前か
ら文部科学省と厚生労働省の研究費で大規模な疫学研究(10-15万人以上
の地域住民について、10年間以上フォローアップ)が行われています。
ここでは紙面の制約から、両省の研究費で行われた疫学研究から最近1,2年
以内に報告された研究の内、注目に値する研究成果を2,3紹介いたします。

 愛知県がんセンター研究所疫学・予防部の若井健志室長らは文部科学省の
大規模がん疫学研究から、新鮮な魚の頻回摂取は乳がんの予防に役立ち、植
物性脂肪は意外にも乳がんリスクをあげること、むしろこれまで悪いと言われて
きた動物性脂肪の方が僅かではあるが、乳がんリスクを下げることを報告して
います(本年5月15日号の「マーガリンよりバターを」をご参照下さい)。

 不飽和脂肪酸に富む新鮮な魚類は乳がんの予防のみでなく、大腸がん、肺
がんの予防にも役立つ可能性があることも別の研究者により報告されています。

 飲酒は乳がんのリスクをあげることが多くの研究者により報告されています
が、愛知医科大学公衆衛生学教室の林(リン)櫻松講師らは文部科学省の大
規模疫学研究から、飲酒習慣のある女性では飲酒習慣のない女性に比べて
乳がんリスクが1.27倍高くなっていると報告しています。この研究から1日当
たりのアルコール摂取量が15グラム(日本酒換算で約0.6合)以下であれば
乳がんリスクは僅かしか上昇していませんが、15グラム以上の女性では乳が
んリスクが約3倍も上昇していると報告しています。女性の多量飲酒は何かに
つけ禁物のようです。

 林博士らは同じ研究から、1日のアルコール摂取量が0.1から22.9グラム
(日本酒換算で0.9合以下)の飲酒者では、非飲酒者に比べて全死因死亡率
が男性で0.80倍に、女性で0.88倍に低下していると報告しています。しか
し、多量飲酒者(1日当たりのアルコール摂取量が69グラム以上、日本酒換
算で約3合以上)では、がん、心臓病、その他の外死因などのリスクが有意に
上昇していることを明らかにしています。 これらの研究からも節酒(少量飲酒)
は百薬の長、多量飲酒は有害であることが確認されています。

 厚生労働省の大規模疫学研究からも多くの研究報告がありますが、注目さ
れるのは、女性の喫煙者では乳がんリスクが約2倍高くなっていること、特に閉
経前の喫煙女性では、自分自身は喫煙せず、受動喫煙もしていない女性に比
べて、乳がんリスク約4倍高く、受動喫煙によっても約2.5倍高くなっていること
です。また、この研究では受動喫煙と乳がんの関係は、家庭での夫の喫煙に
よる受動喫煙よりも職場の同僚による受動喫煙の影響が大きいことも明らかに
されています。これは働く女性が多くなっている現在、職場での受動喫煙対策
の重要性を示しています。

 喫煙と乳がんの関係については否定的な研究報告も多いのですが、今回紹
介した厚生労働省の研究は約2万人の40歳から59歳までの地域住民を10年
間以上追跡した研究で、研究方法もすぐれており、この研究報告は信頼し得る
と考えられます。

 乳がんの予防のためには、禁煙、節酒、食べ過ぎと肥満の防止、魚の頻回
摂取、身体活動などが役立つようです。これらの生活習慣は健康づくり、一般
的な生活習慣病の予防と大差がありませんね。このような生活習慣をしている
と、知らず知らずの内にがんや認知症の予防もできるのです。