メタボリックシンドロームの鍵を握る善玉脂肪ホルモン 『アディポネクチン』(2006年9月16日)

「メタボリックシンドロームの鍵を握る善玉脂肪ホルモン
『アディポネクチン』」

           健康科学総合センター長 富永祐民

 メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)は腹部に脂肪がたまることに
起因しています。腹部脂肪は単に脂肪のかたまりでなく、アディポカイン(脂
肪ホルモン)と総称される種々の生理活性物質を分泌しています。アディポ
カインは数種類あり、あるものは炎症を起こし、別のものは血圧を上げたり、
インスリンの抵抗性を高めて血糖値を上昇させたり、悪玉のLDLコレステロ
ールや中性脂肪を増やす作用があります。これらはいずれも悪玉のアディ
ポカインですが、「アディポネクチン」は唯一善玉アディポカインで、悪玉アデ
ィポカインの逆作用を示しています。最近の研究から善玉のアディポネクチ
ンが減少すると、血圧、血糖値、中性脂肪値などが上昇したり、善玉のHDL
コレステロール値が低下し、メタボリックシンドロームになってしまうことがわ
かってきました。したがって、メタボリックシンドロームの予防や治療のため
にはアディポネクチンが増えるようにすればよいわけです。これまでの研究
から、善玉のアディポネクチンを増加させるには、運動、禁煙、食事療法(カ
ロリーを抑え、大豆製品をよく食べるなど)が有効であることがわかっていま
す。善玉コレステロールは善玉アディポカインと同様に、運動、禁煙で増加し
ますが、さらに飲酒でも増加します。したがって、運動と禁煙でメタボリックシ
ンドロームを予防する善玉アディポカイン(アディポネクチン)と動脈硬化を予
防する善玉のHDLコレステロールが増えますから、運動と禁煙は一石二鳥
の効果があると言えます。しかし、アディポネクチンの量は生活習慣だけでな
く、遺伝的な影響も受けていることが遺伝子多型の分析からわかっています。
日本人の約40%はアディポネクチンが低くなりやすい素因を持っていること
がわかっていますので、これらの人では一層生活習慣に気をつける必要があ
ります。
 名古屋大学大学院医学研究科の玉腰浩司助教授らは愛知県の公務員を
対象とした疫学研究で、出生時体重と成人してからの血清アディポネクチン
値の関係を調べ、出生時体重が大きいほど成人後の血清アディポネクチン
値が高いこと、成人の肥満者では血清アディポネクチン値が低いことを明ら
かにしています。以前から出生時体重が低い児では成人後の血圧が高くな
り、心臓病にかかりやすい傾向があることがわかっていました。これはどうや
ら血清アディポネクチンが低いからではないかと考えられます。このことから、
“小さく産んで、大きく育てる”のは危険であるといえます。最近、若い女性で
は痩せすぎの人が多くなっていますが、痩せすぎの女性では胎児の体重も
軽い傾向にあり、成長後のアディポネクチンの低下、ひいてはメタボリックシ
ンドロームにかかりやすくなることも考えられますので、痩せすぎは避けた方
がよいと思います。

 岐阜大学大学院医学研究科総合病態内科学の松本雅美医師らは岐阜県
下の長寿地区(高山市国府地区)と非長寿地区(山県市美山地区)の住民を
対象として生活習慣調査や健康診断を行い、長寿地区の住民では非長寿地
区に比べて血圧は低く、アディポネクチンは高く、運動能力が良好であること
を明らかにしています。これは国府地区ではよく運動しているために運動能
力が良好であり、アディポネクチンが増加し、血圧が低くなるからではないか
と考えられます。