私の脳卒中?体験記(2007年3月1日)

「私の脳卒中?体験記」

          健康科学総合センター長 富永祐民


 厳寒期は血圧が上昇しやすく、脳卒中にかかりやすい時期です。実は私も2
月上旬に“脳卒中のような病気”にかかりました。具体的には2月初旬頃から
徐々に右脚の動きが悪くなり、歩行速度が落ち始め、その内に右上腕の動き
もぎこちなくなりました。私の場合は普通の脳卒中のように、突然発病したわけ
ではなく(ひょっとしたら、寝ている間に発症したのかも知れないと思っていまし
た)、症状は徐々に進行しました。

脳卒中にはいろいろなタイプがあります。典型的な脳卒中は昔多かった「脳出
血」で、高血圧の存在下にたんぱく質の摂取不足などでもろくなった血管が切
れ、脳内出血を起こします。もう一つのタイプは「脳梗塞」で、比較的大きな脳
動脈が動脈硬化と血栓で閉塞されるタイプですが、最近は細い脳動脈が閉塞
して発症する「ラクナ梗塞」なども増えています。中には心房細動による不整脈
などで心臓内に出来た血栓がはがれて脳動脈を閉塞する「脳栓塞」もあります。
また、一過性に手足の動きが悪くなったり、口がもつれたりする「一過性脳虚
血発作」もあります。これらの脳卒中の共通の基盤として、高血圧、老化に伴う
動脈硬化があります。さらに、「くも膜下出血」は脳動脈瘤が破裂して激しい頭
痛、吐き気などがみられる致命率の高い脳卒中で、30歳代、40歳代の比較
的若い女性にもみられます。

さて、私の右脚、右腕の動きが徐々に悪くなるのはどのタイプの脳卒中でしょ
うか?私は自己診断で“ラクナ梗塞”ではないかと思いました。それにしても、
血圧は正常、血清コレステロール値も正常、血糖値も正常、たばこも吸わず、
大酒も飲んでいません(実は飲めない)ので、いわゆる脳卒中の危険因子は
何一つ無く、強いて言えば、老化に伴う脳動脈硬化くらいしか思い当たるもの
がありません。

2月初旬から徐々に右脚の動きが悪くなり、ついに2月8-9日に厚生労働省
の循環器疾患・生活習慣病予防に関する研究班の班長発表会が開催され、
2日目の午前中に座長の勤めを終わってから、退席し、急いで名古屋へ引き
返しました。一刻も早く病院を受診した方がよいと思い、家族に駅まで迎えに
来てもらい、自宅にも立ち寄らずに愛知医大の高度救急救命センターへ飛び
込みました。直ちに内科医の診察を受け、脳のCT検査を受けました。内科医
はCT所見を診てしきりに「最近脳を強く打ったことはありませんか?」と尋ねた
が、「思い当たるふしはありません」と答えた。しばらくして付き添っていた家内
が私が昨年12月に北海道へ出張した時に雪道でひっくり返ったと言っていた
ことを思い出しました。そう言えば、ちょうど2か月前に札幌へ出張した時に、
飛行機便の関係で会議までに3-4時間待ち時間がありましたので、その間
に小樽を訪問しました。一般の観光客が押し寄せる運河付近を素通りして、小
樽湾を見下ろしたいと思い、小樽湾に面した小高い丘へ登りました。小樽では
すでに雪が積もっていました。丘から下へ降りる際になだらかな道を引き返さ
ずに、近道をして急勾配の坂道を降りようとしました。雪の下の路面が凍結し
ていたものとみえ、1,2歩踏み出したとたんにドデンと真後ろへひっくり返り、
後頭部と背中を強打しました。しかし、痛みも消えていき、当日は頭蓋内出血
の兆し(頭痛、吐き気など)もなく、一安心し、この転倒事件は完全に記憶から
消失していました。 

私の脳卒中?は「慢性硬膜下血腫」による脳の圧迫症状であったのです。
救急救命センターで脳外科医に診てもらい、すぐにドレーンを設置して溜まっ
た血液を抜いた方がよいと勧められ、そのまま手術室へ直行し、ドレーンを設
置してもらいました。一晩で約140mlの血液が排出され、翌朝には症状は劇
的に改善しており、その日の内にドレーンを抜いてもらいました。経過観察、
傷口のガーゼ交換、抜糸などのためにその後1週間入院していましたが、入
院中にすっかり元気になりました。結婚して以来、今日まで1週間も休養した
ことがありませんでしたので、改めて休養により“本来の元気”が回復すること
を痛感しました。私も今年中に満70歳になりますので、ぼつぼつ仕事のペー
スを落として無理をしないようにしようと思った次第です。