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運動器の安全管理

愛知県版運動器の機能向上プログラムの内容及び、愛知県介護予防推進会議「運動器の機能向上部会」での検討により、安全で適切な運動プログラムの実施に向けた安全管理について解説します。

 ・事前アセスメント
 ・医学的な安全管理
 ・運動機能の状態によるプログラムの設定
 ・運動プログラム実施の際の留意点
 ・救急時の対応
 ・高齢者の運動機能の特徴
 ・市町村事例:豊橋市「運動で元気はつらつ教室」安全管理について

 事前アセスメント

@対象者が安全に運動を行えること、A対象者に効果のある運動を提供すること、を目的として、個々の健康状態や生活背景を情報収集・評価します。

@医学的側面 A体力測定 B生活側面 C心理的側面
・治療中の病気
・服薬内容
・既往歴、家族歴
・転倒経験、骨折歴
・自覚症状の有無
・関節痛、痛みの程度
・血圧測定、脈拍測定
・5m最大歩行速度
・開眼片足立時間
・握力
・Time Up & Go
・運動習慣、経験
・日常生活動作
・趣味、いきがい
・運動の好き嫌い
・運動目的や希望

事前アセスメント問診表(Word:32KB)

 医学的な安全管理

【主治医のある場合】
・治療中の病気については、主治医からの運動制限の有無を確認します。
・特に運動制限基準(表2)に該当する場合には、主治医への確認と判断が必要です。
・服薬している場合には、薬の説明書(薬剤情報提供書)により、効能や副作用、注意事項を確認
 することができます。
 服薬内容によっては、運動実施時に留意が必要となる場合があります(表1)。

 表1 服薬内容による運動時の留意点と対策
服薬内容 留意点 対 策
降圧剤
【β遮断薬】
心拍数や血圧上昇が抑制されるため、
運動中の心拍数が運動強度の目安とならない。
運動強度の確認や設定には、心拍数は参考程度とし、ボルグの自覚的運動強度(RPE)を用いる。
降圧剤
【血管拡張系】
血管の拡張により、運動後に低血圧を起こすことがある。めまい・ふらつき等の症状があらわれる場合がある。 急激に運動を止めずにクーリングダウンを段階的且つ長めに行う。
ふらつきによる転倒に注意し、症状がある場合には休憩する。
糖尿病薬 運動中や運動実施後の低血糖(空腹感、生あくび、ふらつき、手足のふるえ、冷や汗など)に留意する。 空腹時の運動は避ける。低血糖症状が生じたら、速やかに糖分を補給して、落ち着くまで安静にする。
血小板凝集抑制剤
血液凝固阻止薬
脳梗塞や心筋梗塞の既往や予防に使われるため、循環器疾患のハイリスク者であることが予測される。
出血すると止血し難い場合がある。
循環器系のリスクから過度の運動は避ける。
打撲でもひどく内出血を起こすなど、運動時の外傷に注意が必要。
精神神経薬剤
複数・多種服薬
薬の効用や副作用によって、ふらつきや倦怠感が生じる場合がある。 素早い動作や注意力を要する運動は避ける。ふらつきによる転倒の危険性が高まるので留意が必要。

【検査データのある場合】
・検査データにおいて、「要精検」・「要医療」の項目がある場合には、医療機関への受診を勧奨
 し、運動の可否について医師に確認します。


【主治医・検査データがない場合】
・運動制限基準(表2)に同等する症状が疑われる場合には、医療機関への受信を勧奨し、運動の
 可否について医師に確認します。

 表2 運動参加の制限基準(出典:厚生労働省「運動器の機能向上マニュアル)
●対象者から除外すべきもの(健康診断、または主治医の判断に基づく)
【絶対除外基準】
 ・心筋梗塞・脳卒中を最近6か月以内に起こしたもの
 ・狭心症・心不全・重症不整脈のあるもの
 ・収縮期血圧180mmHg以上、または拡張期血圧110mmHg以上の高血圧のもの
 ・慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎・肺気腫など)で息切れ、呼吸困難があるもの
 ・糖尿病で重篤な合併症(網膜症・腎症)のあるもの
 ・急性期の関節痛・関節炎・腰痛・神経症状のあるもの
 ・急性期の肺炎・肝炎などの炎症のあるもの
 ・その他、サービス等の実施によって、健康状態が急変あるいは悪化する危険性があるもの
【主治医の判断で相対的に除外や運動の制限を考えるべき基準】
 ・コントロールされた心疾患・不整脈のあるもの
 ・収縮期血圧180mmHg未満の高血圧のもの
 ・慢性閉塞性肺疾患で症状の軽いもの
 ・慢性期の関節痛・関節炎・腰痛・神経症状のあるもの
 ・骨粗鬆症で、脊椎圧迫骨折のあるもの
 ・認知機能の低下により、参加が困難であるもの
 ・その他、医師が除外や運動の制限が必要と判断したもの
【運動器の機能向上の適応を考えるべき基準】
 ・慢性期の膝痛・腰痛であって、医師から運動の制限を受けていないもの 

 運動機能の状態によるプログラム設定

事前アセスメントにより、運動機能の低下がある場合(表3)には、その項目から対象者の特徴があげられます(表4)。
対象者に応じたプログラムを設定し(表5)、個々の状態に応じた運動を提供します。

 表3 運動機能低下の該当基準
項目 運動機能低下の該当基準
日常生活動作
(ADL)
□階段を1階まで昇る:むずかしい、少しむずかしい
□入浴の動作について:手伝いが必要、見守りが必要
□10m歩行速度:男性8.8秒以上、女性10秒以上
□Time Up & Goテスト:11秒以上
 ※一項目でも該当した場合は、日常生活動作の機能低下とみなす
バランス機能
(開眼片足立時間)
□開眼片足立時間:15秒未満
関節痛
(腰・膝)
□自覚症状(腰):安静時でも痛む、動作時(立つ座る、歩くなど)に痛む
□自覚症状(膝):安静時でも痛む、動作時(立つ座る、歩くなど)に痛む


 表4 対象者の区分と特徴 (○:良好な状態、↓:機能低下))
区分 ADL 片足立 腰膝 対象者の特徴
1  基本的には元気高齢者(一次予防対象者)と捉えられる
2  関節痛を改善し、将来的な運動機能の低下を防ぐ
3  転倒予防を目的として、下肢筋力やバランス機能の改善が必要
4  運動器不安定症の疑い。早期に関節痛、転倒予防の対策が必要
5  ADL低下の原因疾患や症状を明確にし、対応する動作訓練が必要
6  関節痛からのADL制限が予測。関節痛と動作制限の関係性を重視
7  廃用性による機能低下の疑い。場合によっては要介護申請を勧奨
8  要介護申請の勧奨。介護予防サービス(予防給付)との連携


 表5 対象者の区分に応じた運動プログラムの設定
対象者の区分 運動プログラム
 低下なし・関節痛なし  健康長寿プログラム
 日常生活動作(ADL)の低下  日常生活動作改善プログラム
 バランス機能(片足立時間)の低下  バランス機能改善・転倒予防プログラム
 関節痛(腰痛・膝痛)あり  腰痛改善プログラム、膝痛改善プログラム
   ※運動プログラムの詳細は、「愛知県版運動器の機能向上プログラム(冊子)」を参照


 運動プログラム実施の際の留意点

高齢者では体調変化が生じやすく、疲労も蓄積しやすいため、運動中の安全面への配慮とともに、運動の実施前・実施後には体調を確認します。

実施前後の体調チェック表(Word:44KB)

【運動実施前】
 ・体調チェックで以下に該当する場合は運動を実施しない。
  1.安静時に収縮期血圧180mmHg以上、または拡張期血圧110mmHg以上である場合
   (急いで来所時や緊張などで高値となるため、血圧は十分に落ち着いた状態で計測します)
  2.安静時脈拍が110拍/分以上、または50拍/分以下の場合
    いつもと異なる脈の不整がある場合
  3.関節痛・腰痛など慢性的な症状の悪化
  4.その他、体調不良などの自覚症状を訴える場合
   (風邪、発熱、疲労感、ふらつき、めまい、飲酒など)


【運動実施中】
 ・常に下記の点に留意しながら安全面への配慮を行います。
  1.実施中には自覚症状(痛み、動悸、体調不良など)や他覚症状(ふらつき、顔面蒼白、
    冷や汗、脈拍・血圧など)による安全管理を行う。
  2.水分補給は極めて重要であり、必ず時間をとって水分補給を行う。
   「喉の渇きを感じにくい」、「頻尿を心配して水分を控える」ことなどから、高齢者では脱水
    を起こしやすい。
  3.実施中の転倒防止
    ・複雑な動作や素早い動作を避ける
    ・椅子や手すり、補助の使用
    ・環境への配慮


【運動終了後】
 ・体調変化や疲労感を確認し、安全管理と運動強度を見直します。
  1.自覚症状、体調変化の確認(めまい、ふらつき、動悸、痛み、その他の体調不良)
  2.関節痛が憎悪していないかを確認する
  3.疲労度の確認を行う
  4.プログラムの感想
   ※状況に応じて、血圧測定、休憩、無事に帰宅できたかの確認等を行う

 救急時の対応

従事者は常に救急時の対応を意識し、事業や施設ごとに事故発生時の「安全管理マニュアル」を作成し、体制を整えておく必要があります。
また、従事者は正しく救命活動ができるように、救急救命及びAED使用法を習得しておきます。

運動指導の安全管理マニュアル(主任研究者:津下一代)(PDF:2,523KB)


 高齢者の運動機能の特徴

【体力・生理的予備能力の低下】
立位体前屈(柔軟性)、腕立伏せは既に30〜40歳で急速に低下し、垂直跳び(瞬発力)、反復横跳び(敏捷性)や脚筋力も、年々同程度に低下します。したがって、高齢者では運動強度が高く、敏捷性や瞬発力を要する種目の選択は望ましくありません。
全身持久力の指標となる最大酸素摂取量も加齢とともに低下し、50歳になれば、20歳値の約50%になります。開眼片足立ち(バランス能力)は40歳を過ぎると急激に低下し、60歳には20歳値の20%程度になります。
一方、筋力のなかでも握力は低下しにくく、物を持ち運ぶなどの日常生活行動が維持につながっているといえます。(図1)
【個人差の増大】
体力の低下速度は、日頃の運動習慣や活発な日常生活行動によって異なります。
特に高齢者においては、個々の状況によって個人差が大きくなります。
【組織の脆弱化】
加齢にともない臓器や組織の機能が低下します。筋量や筋力の低下、骨密度の低下、関節の変形などから、高強度の運動は関節痛の出現や悪化をともなう場合があります。
【回復の遅延】
高齢者では疲労の回復が遅延します。運動を実施する際には、無理なく疲れが残らない範囲にするとともに、運動後には十分な休養が必要です。
【血圧の亢進】
加齢にともなって収縮期血圧が上昇してきます。高齢者では運動に対する血圧反応も大きくなり、同一負荷に対して、血圧が上昇しやすくなります。特に無酸素性の運動や高強度の筋力トレーニングでは血圧上昇が著しくなります。
【最高心拍数の低下】
運動時の最高心拍数(220-年齢)は加齢によって低下します。したがって、同一の心拍数であっても若年者と比べて相対的な運動強度が高くなります。
【運動許容量の幅が少ない】
上記の事項から、高齢者では運動許容量が少なくなり、強度の高い運動は危険性をともないます。


 市町村事例:豊橋市「運動元気はつらつ教室」安全管理について

・事業の種類  二次予防事業 通所型介護予防事業 運動器の機能向上プログラム
・実施の形態  フィットネスクラブに委託して実施
・スタッフ   教室で1名以上運動指導員(※)、その他(介護保険、老年学、運動器の機能向
        上に関わる知識を有する者)は、定員により設定
        ※理学療法士、作業療法士、医師、看護師、健康運動指導士、介護予防主任運動
         指導員又は介護予防運動指導員と規定しているが、多くが健康運動指導士


 教室の初回・最終回は、市役所から理学療法士(または保健師)が必ず出向き、参加者の健康状態をチェックする。また、中間にも数回教室に出向き、実施状況の確認や参加者の健康状態などを確認している。


【仕様書への記載内容】

・安全管理マニュアル作成
  事業実施者は事業を安全に実施するめに、事故発生時の対応を含めた「安全管理マニュアル」を
  整備し、有事に際して速やかに対応できる体制を整えるものとする。
  教室実施の際には、AEDを持参すること。ただし、会場内または会場近くにAEDが設置されて
  いる場合はこの限りではない。
・運動教室の実施
  「実施項目確認リスト」に掲げる事項に留意し、運動教室を実施する。
  実施にあたっては、厚生労働省で示している「運動器の機能向上マニュアル改訂版」等を参考に
  し、事前に実施予定プログラム等について豊橋市と協議する。
  運動教室の実施手順を次に示す。・・・・・

安全管理マニュアル(Excel:88KB)
・教室開始前に委託業者と緊急時対応フロー(案)について確認し、必要があれば変更する。
・緊急時対応フローは、事業者、市役所、地域包括支援センターの動きがそれぞれに決めてある。
・委託事業者に教室開始前に連絡先一覧を提出してもらう。
 (委託事業者の責任者の連絡先、会場の電話番号、教室の責任者と教室時の連絡先)
・緊急時対応フロー両面(事業者/市役所・包括)及び連絡先一覧を事業所、市役所、地域包括
 支援センターで共有する。

実施項目確認リスト(Excel:38KB)
・実施項目確認リストの項目について、適切に行えているか、市役所の職員が出向いたときに確認
 している。 <その他>
・「運動で元気はつらつ教室」参加希望者には、全員に参加適否検査を医療機関にて受けてもら
 い、参加適当と判断された者のみ参加できる。
 (参加適否検査は生活機能評価のRSSTがないもの)

参加適否検査受診表(PDF:125KB)
・既往歴等から、参加適否検査受診医療機関ではない主治医にも、教室参加について確認した方が
 よさそうな方は、市役所から本人に連絡して状況を聞き、必要であれば口頭で確認をとってもら
 うようにしている。
・既往歴、参加適否検査、市役所の医療職(理学療法士、保健師)の問診から、注意が必要な方に
 については、教室担当者に伝達し、注意するポイントを説明し、気になることがあれば市役所へ
 連絡してもらっている。
・会場設営は施設内にAEDが設置されているか、近くにAEDが設置されている施設を選択してい
 る。